カリキュラム / 第6章 ポップスの技法 応用

裏コード ― ドミナントの真裏に差し替える

G7の代わりに、真裏のD♭7を置く。同じ緊張感のまま、ベースが半音でスッと解決する都会的な響き。

第2章で、ドミナントセブンス G7 がC(ホーム)へ強く帰りたがるのは、中に トライトーン(不安定でぶつかり合う2音、ここではシとファ)を抱えているからだと学びました。今回はその性質を逆手に取った、少しおしゃれな技を紹介します。名づけて 裏コード。ドミナントには、じつは”裏の顔”があるのです。

同じトライトーンを持つ、もう一つのコード

G7に含まれるトライトーンは、シ(B)とファ(F)でした。ここで面白い事実があります。このシとファをそっくり含むドミナント7thが、G7のほかにもう一つ存在するのです。

それが、Gからちょうど反対側、ルートを半音6つ分ずらした D♭7(レ♭・ファ・ラ♭・シ)。この「半音6つ分」の距離を 三全音(さんぜんおん)、英語で トライトーン と呼びます。G7の第3音と第7音、つまりシとファが、D♭7の中にもちゃんと入っています。役割の中身が同じなのだから、G7の代わりにD♭7を置いても、ちゃんとCへ解決してくれる。これが裏コード、正式には 三全音代理(さんぜんおんだいり) です。

ここが大事:差し替えを支えているのはトライトーン(シとファ)の共有です。ここが同じである限り、行き先へ引っぱる力は保たれます。

つまずきポイント:ルートが全然違うのに代役が務まるのを不思議に感じるかもしれません。ポイントはルートではなく「中身のトライトーン」。コードは、ときにルートよりも中の緊張する2音のほうが正体を握っているのです。

効果は「半音でスッと解決」する洗練

では、差し替えると何が変わるのか。いちばんの違いは ベースの動き です。

王道の G7 → C では、ベースがソ → ドと4度分ぐっと跳びます。力強く帰ってくる感じですね。一方 D♭7 → C では、D♭はドのすぐ半音上にいるので、ベースは レ♭ → ド と半音で最短距離を滑り込みます。同じ”解決”でも、こちらはずっとなめらかで、都会的でおしゃれな手触りになります。

言葉で追うより、耳で聴き比べるのが早いです。「音で確認しよう」で G7 → CD♭7 → C を続けて鳴らし、後者の滑らかさを感じてみてください。ジャズやシティポップで、定番の ii → V → I を ii → ♭II7 → I に置き換えるのは、まさにこの響きを狙ってのことです。

まとめ

裏コードは、ドミナント7thを「真裏にあって同じトライトーンを持つドミナント7th」に差し替える技法でした。G7の裏はD♭7。差し替えの根拠はトライトーンの共有で、効果はベースが半音でスッと解決する洗練された響きです。五度圏(ごどけん)の図で見ると、GとD♭はちょうど正反対の位置。「真裏に差し替える」というイメージがそのまま絵になります。次はいよいよ最終レッスン、コードの中の一音だけをそっと動かす、映画的な技法へ進みましょう。

🔊 音で確認しよう

ボタンをタップすると音が鳴ります。理屈と響きは、セットで覚えるのがいちばんの近道です。

QUIZ理解度チェック

習ったことを3問で確認しましょう。まちがえても解説ですぐ復習できます。

Q1.「裏コード」とは、あるドミナント7thを何に差し替えたものですか?

解説:裏コードはルートを三全音(半音6つ)ずらしたドミナント7thで、G7の裏はD♭7です。マイナーやメジャーに変えるのではなく、あくまでドミナント7thどうしの差し替えです。

Q2.G7とD♭7を差し替えられるのは、なぜですか?

解説:解決の原動力であるトライトーン(シとファ)を両者がそっくり共有しているので、行き先へ引っぱる力が同じなのです。ルートは違い、偶然でもありません。

Q3.裏コードを使って「D♭7 → C」と進むと、ベースの動きはどうなりますか?

解説:D♭は行き先ドのすぐ半音上にあるので、ベースがレ♭→ドと最短距離で滑り込みます。元のG7→Cのソ→ドという4度の跳躍が、なめらかな下降に置き換わるわけです。